2026年7月24日 更新

坂本直行が描いた山野草と、朝ドラ『なつぞら』の記憶を訪ねて

ペンネーム:C・I

旅のきっかけは、一本の朝ドラ

先日、北海道の帯広・十勝地方を旅行してきました。
見渡す限り続く畑と牧草地、どこまでも真っすぐに伸びる道路、そして遠くに連なる日高山脈。その雄大な風景は、写真や映像で見る以上の迫力があり、北海道ならではの大地の豊かさを肌で感じることができました。

 
今回の旅のきっかけは、2019年に放送されたNHK連続テレビ小説『なつぞら』です。戦後の十勝を舞台に、主人公・奥原なつが日本のアニメーション草創期に夢を切り拓いていく姿を描いた作品で、多くの視聴者の胸を熱くさせました。
ドラマの中で、なつに絵を描く純粋な喜びを教えた画家・山田天陽は、十勝の画家・神田日勝をモチーフとしています。神田日勝と、今回の旅で出会うことになる画家・坂本直行は、それぞれ別の人物です。しかし、農業と向き合いながら十勝の自然を描き続けた二人の姿勢には、不思議な共通点を感じます。

六花亭の包装紙と坂本直行

北海道を代表する銘菓「六花亭」。その包装紙に描かれた可憐な山野草は、多くの人に親しまれています。このデザインを手がけたのが、山岳画家・坂本直行(さかもと なおゆき)です。坂本直行は、坂本龍馬の甥にあたる坂本直寛の孫として知られています。
包装紙に描かれた山野草の中でも、エゾリンドウ、ハマナシ、オオバナノエンレイソウ、カタクリ、エゾリュウキンカ、シラネアオイの6種は「十勝六花」と呼ばれ、六花亭の名の由来にもなったとされています。いずれも十勝の厳しい自然の中で健気に咲く花々で、直行が何よりも愛した植物たちでした。


直行は北海道大学農学部を卒業後、戦後の混乱期に十勝・広尾町に入植しました。しかし、開拓生活は想像を絶する困難の連続だったといいます。その日々の中で彼の心を支えたのが、遥かに仰ぎ見る日高の山々と、足元にひっそり咲く山野草でした。可憐な花々を見つめるまなざしには、自然への深い敬意と、命への温かな愛情が込められています。

六花の森を訪ねて

旅の目的地の一つである、六花亭の関連施設「六花の森」は、樹齢百年を超えるニレの大木がそびえ、清流に囲まれた静かな空間です。園内には坂本直行記念館や花柄包装紙館等があり、十勝六花や北海道の山々を描いた作品、包装紙の原画を鑑賞することができます。原画を前にすると、普段見慣れた包装紙とは印象が大きく異なります。柔らかな線、優しく繊細な色彩、そして花々の生命力。単なるデザインではなく、北海道の自然そのものを描いた芸術作品であることを実感しました。


さらに園内では、包装紙に描かれた山野草が季節ごとに実際に花を咲かせています。春先のカタクリやオオバナノエンレイソウ、エゾリュウキンカに始まり、夏にはハマナシ、シラネアオイ、そして秋にはエゾリンドウへと、十勝六花が咲き誇ります。「絵の中の花」と「本物の花」を同じ場所で見比べられる体験は、六花の森ならではの大きな魅力でした。

終わりに

一本の朝ドラ『なつぞら』との出会いから始まった今回の旅はドラマの余韻を楽しませてくれただけでなく、坂本直行という一人の画家の気高い生涯と北の大地が持つ奥深い自然と文化を教えてくれました。
十勝を歩き、山野草を眺めていると、坂本直行が花々に託した思いが少しだけ理解できたような気がしました。十勝の雄大な風景と山野草の美しさは、これからも多くの人の心に残り続けるでしょう。